インタビュー

元電通マンと語る ノベルティ の本質的な意味とは!?

元電通マンと語るノベルティよもやま話

現代の ノベルティ に必要なこと

広告全盛期の ノベルティ とはどんなものだったのか。「ノベルティ=お金を出してでも欲しいアイテム」だった頃のノベルティ制作の心得とは?そしてこれから先のノベルティと企業の向き合い方とは?広告界の重鎮に聞くシリーズ、第2弾!

 

吉田望さん 写真

吉田望

1956(昭和31)年東京生まれ。東京大学工学部卒、慶應義塾大学大学院経営学修士。1980年電通入社、2000年に退社後、ノゾムドットネットを設立。スカイマークエアラインズほか数社の役員。著書に『ブランド』(宣伝会議)、『会社は誰のものか』(新潮社)など。

 

tetote 三浦

tetote代表 ミウラユウジ

1984(昭和59)年 神奈川育ち。印刷メーカーにて4年、吉田望が創業した広告ブランディング会社takibiに10年在籍。2021年に株式会社tetoteを設立。企業ノベルティの改革、KPIを超えるギフトの可能性を発信する修行中。

 

市販のものより ノベルティ の価値が高かった時代

 

ミウラ前回は、日本の広告業界全盛期のステキな時代…についてお聞きしました。ここからは、tetoteという企業ノベルティをメインのビジネスとする会社をつくった私の相談をさせてください。(笑)

吉田:そうだよね、ミウラくんと付き合い長いけど、ブランディングの仕事が主でありながらノベルティ職人でもあった。

 

ミウラ:吉田さんは、電通時代にノベルティって作ったことありますか?

 

吉田昔のノベルティは結構面白かったよ。広告会社が本気でお金をかけて作ったら、普通に売っているものより遥かに良いものができる。それを作ろうって“きらい”があったんだよ。

例えば、富士フイルムの「カセット」のキャンペーンでYMOをたてた時があった。SP担当者がクリエイターになる前の佐藤雅彦さん。彼の発案でテクノイメージにあわせて安西水丸さんにカセットのアートワークを作ってもらったら、爆発的に当たってカセットがバカ売れしたんだ。
 
 
 
ミウラ:おお、出てくる名前がすべてエグい…規模感がすごいですね。

 

 

吉田:懸賞キャンペーンのプレゼントとか、有名なクリエイターを集めて、市販のものを凌駕しようという想いが強かった。世の中に、そこまで良いものが多くない時代だったからね。

吉田:思い出すと、僕が海外で見つけた車専用のカセットケース入れをノベルティにしたこともあったな。フォルクスワーゲンの形をしていて、車の上部(屋根の部分)がガラッとあく、カセットケース入れ。これを1000個作って欲しいと言ったら、国内で作れるところがなくて。なんとかベトナムに生産工場を見つけて、製品管理までして1000個つくってもらったんだ(笑)

 

ミウラ:ノベルティとしても手間と労力と費用感がハンパないですね。それならかわいくて希少で欲しいなと思います。

 

吉田:クライアントは「カセット」を売りたかったから、ノベルティは製品とセットで使ってもらうためのストーリーだったんだよね。何もしなくても消費者がカセットを買ってくれるならそんなことはする必要ないよね。そんな仕掛けを作るために本当に色々やったよ。

時代が良かったせいもあるけど、ノベルティで、会社が変わってしまうくらい売れた製品もあった。池田模範堂のムヒって痒み止めで、”アンパンマン”グッズのベタ付けをしたら、国内製品売上高が20億強から30億円程度に増大して電通が表彰されたりね。子供がお母さんにせがんだのだろうね。

 

ミウラ:今や子供向けの医薬品はアニメキャラのイメージを使うのが当たり前になっていますが、その先駆けだったわけですね。そのノベルティも、子供がお薬(製品)を使いたくなるストーリーを上手に汲んでいる。

 

吉田:本当にみんな夢中でノベルティをつくることに打ち込んでいたから、そういうノスタルジーは今でもあるよ。

 

ミウラ:吉田さんが仕掛けたような、これまでになかった新しいものに出会った衝撃みたいな高揚感を消費者が持つことは、すべてがコモディティ化した現代では難しいかもしれませんね。

 

吉田:モノに対する強い欲求は、今の時代はないからね。モノではつれないよね。

ミウラ:作り手のやりがい、熱量の高さも、市場を開拓する余地も。あとなにより予算も(笑)。今とは違いますね。

 

吉田:そうだね、大袈裟な言い方ではなく、仕事が人生だったんだよ。仕事が「想い」を表現する手段だった。でも今は、仕事は左脳的な一部分に過ぎないように見える。プレスリリースを見たけど、「捨てられるノベルティ」が今は多いんでしょ?

 

驚きの調査結果!?「ノベルティを捨てたことのある人」の59%が「新品のまま捨てた」経験あり…

驚きの調査結果!?「ノベルティを捨てたことのある人」の59%が「新品のまま捨てた」経験あり...

ミウラ:はい、 調査で分かったのですが多くの人が企業のノベルティを手つかずの新品のまま、捨てる経験があるそうです。僕もそれを生で見た経験があり、ノベルティに真剣に取り組みたいと感じたのが起業のきっかけなんです。

 

吉田:おじさんの老害コメントにならないようにしたいんだけど(笑)そんな現状は広告業界にいたものとしては悲しいし、そういう意味ではミウラ君のノベルティに関わる仕事は、広告の本質的な部分に再び光をあてているように見えて期待しているんだよ。

 ノベルティ について語る吉田さん写真

吉田:あとノベルティの残念なところは、歴史に残らないことだと思う。みんな保存しないでしょ。僕のワーゲンのカセットケースも、あんなに苦労して作ったのに、手元に残って無いんだよね。ノベルティ博物館みたいなものがあれば、歴史を残せるし、後世に繋げられるのに、と思うよ。

 

ミウラ:なるほどなあ、当時どんなに価値があっても、時代の中で捨てられてしまっていますもんね。文化として保存することで業界全体としての熱量をつくるというのもありますね。

 

(次ページ:デジタル時代だからこその、ノベルティの可能性とは)