インタビュー

元電通マンに聞く! 広告・ ブランディング 界の『現代の病』

 

広告クリエイティブにもデジタル化の波

 

ミウラ:そんな岡さんと吉田さんの共著である『ブランド』(宣伝会議)は、私の入社時の最初の課題図書でした。そして、2021年にTUGBOAT主催の展示会を拝見しました。岡さんの手がけたCMが広告界に残した軌跡は、本当に大きなものですね。

Oka Yasumichi 1956-2020 His walkswordsworks
「Oka Yasumichi 1956-2020 His walks/words/works」

吉田:そうだね。広告全盛期に、第一線で活躍し続けた岡の人生は特別だったと思う。そんな岡の展示会に、若い人たちがたくさん来てくれて、彼らの真剣な眼差しを見て、とても感銘を受けた。

 

ミウラ:岡さんや吉田さんの時代の広告の作り方は、今のやり方とは違うんですか?

 

吉田:僕らの時代は、「アイデア」を大事にしていた。製品と消費者の二者だけで広告が完結したら、全ての広告は似てきてしまう。だから、必ず第三者の何かを持ってきて、それに表現させるというのが当時の広告の作り方だった。岡の場合は、それが「誰かの人生」と言うテーマだったね。

岡さんは小説も執筆した。未完の小説となった「エイトマン」

 

ミウラ:「誰かの人生」を広告に入れ込む?

 

吉田:例えば、彼が手がけた『BOSS』のCM。当時、僕は電通総研で会社への提言をまとめていた。そのテーマが「情報社会のロビンソンクルーソー」だった。情報社会を生きることは、つながっているように見えて、むしろ無人島でサバイブするような孤独なだってことが⾔いたかったんだよね。

 

ミウラ:面白いですね、今のネット社会への変化をすでに捉えているような。

 

吉田:僕は会社から「素敵な未来をそんな孤独な男に例えてどうする」って却下されたんだ。けど岡が「それ、もらうよ」ってCMにしたの(笑)。孤独だからジャングルかなんかの小野田少尉的な絵を想像してたんだけど、岡が作ったのは全く違った。矢沢永吉さんが孤独なサラリーマンで、その孤独を癒すためにBOSSのコーヒーを飲むっていうCMだったんだよね。

 

ミウラ:そうか、誰かの人生というのは、その矢沢永吉さんが演じる「よくあるサラリーマンの人生」ということですか?

 

吉田:そうそう。わかりやすく彼の作品は「人生」にフォーカスしたから、みんなが共感できる側面があったんだよね。CMは大当たり。テーマが普遍的だと、そのテーマに基づいていろんなバリエーションでCMを作り続けることができる。長続きすれば大きなキャンペーンもできる。僕らの時代は予算も大きかったし、そういう長期的なキャンペーンを見越したストーリーが描ける「柱」が要求されたんだよね。

ミウラ:なるほど、商品機能だけを訴求するのだけでなく、伝えるための「アイデア」がより必要だったのですね。

 

広告は即効性?埋没化する原因

 

吉田:ミウラ君は、岡の展示をみて何を感じた?

三浦 写真

ミウラ:そうですね。映像の中の「余白」で感情が揺さぶられるというか、全てを言葉にしないですよね。昭和平成の日本人の通奏低音をうまく使って視聴者の心を射抜くなあと。だからこそ、岡さんの展示の台詞で「デジタルは、そのまんまだから、品がない」という言葉が印象的で。

岡さん展示写真

ミウラ2010年代はデジタル広告の流れが進み「コンバージョンされるもの」がクライアントの価値基準になった肌感覚があります。即効性のあるドラッグみたいな表現をするクリエイターやクライアントへの言葉ですよね。あと、消費者に対しても「そんなものに騙されるな。」とメッセージがあるような気がしました。

 

吉田:それを聞いて思い出したけど、岡と「 広告 の墓場 」だと話題にしたんだけど、あの老眼鏡をおしゃれに見せるような商品のCMがちょっと前に流行ったじゃない?おそらくクリエイターを排除して自社で作ったのでは?と話題になったんだよね。僕らがやってはいけないと思っていた「製品と消費者」だけで完結するCM。あれが、 広告 に対する経営の回答なんだよね。

 

ミウラ:ありましたね。セクシーな女性がメガネの上に座ってしまい、商品の訴求をするという。現代のクリエイターなら、まず堂々と出せなそうな昭和の世界観というか…

 

吉田:うん。きっとクリエイターを呼ぶと、広告に余計な軸を付け加わると効果が出ないという、あれが、広告に対する経営からの一つの回答なんだよね。一瞬のインパクトはあるし、CM的には当たったと思う。でも、キャンペーンとの柱がある訳じゃないから、ブランドとして⻑続きはしないだろうって岡と話した覚えがあるな。

 

ミウラ近い話だなと思うのが「タクシーアド」です。BtoB企業の経営者をターゲットにしたタクシーで流れる広告でこの数年で盛り上がったメディアですよね。私も制作に携わったんですが、先にパイロット版をいくつか作って、それをYouTubeに流して一番反応がよかったものを本制作する手法もあると。プレではタレントは使わないで、エキストラで同じプロットを演じて反応を見るんだそうです。

対談風景

ミウラクリエイティブの未知なる可能性 < コンバージョンの確実性』という現実を突きつけられました。自分も経営をしてみてわかるのは、もちろん確実に結果が出る広告が喉から手が出るほど欲しいというのも本音です(笑)広告が販促化してくるのは不可逆的な流れですね。

 

吉田:パイロット版をいくつか作って、一番反応があるものを選ぶのか…それ、一見最適なものを選んだように見えるけど、最初のアイデアが限定されている時点で欺瞞(ぎまん)だよね。全くちがう視点で考えたパイロット版なら別だけど。そういう手法で作られるCMというのは、非常に似てくるんだよね。

 

ミウラ:はい、まさに。BtoB商品は「タレントを使う」「ピンチに製品が出てきて解決する」っていうプロットが全て一緒なんです。これが成功法則だとなると、奇抜なアイデアにリスクとってまでコストかけようなんて思わないですよね。この流れでは、岡さんみたいなクリエイターは希少人種になりますね。

 

吉田岡のCMが成功した一つの理由はね。他社が華々しく、元気なCMを作っているときに、モノトーンで暗いものを作ったからなんだよね。広告を横軸で見た中での差別化も必要ってこと。やり方や手口が似通っていて、選択制でみんながほとんど同じものを選ぶとすると、広告が埋没化しちゃうのは当たり前だよね。

 

ブランドと広告の関係

 

ミウラ:吉田さんと岡さんの著書「ブランド」の中では、発注するクライアント側についても言及されていました。モノが溢れコモディティ化している中で、各社が製品で差別化することが難しくなりますよね。クライアント側も 広告 のコンセプトやアイデアを決めることが難しくなっているんじゃないでしょうか。それは当時も今も変わらない構造のように思えますが。

 

吉田:クライアント自身がマーケティングを真剣に考えているかどうかを、欧米や韓国と比べると、日本は非常に劣っていると思う。これの要因の一つは、誰がマーケティングプランニングをするか、という点にあるんじゃないかな。海外だとクライアント自身が、マーケティングプランを自分で作るんだよね。代理店の人間がクライアント側に入っている場合も多い。でも、日本の企業の場合はプレゼンシートの作成から代理店に求めてくることが多い

 

ミウラ:基本的には、支援会社は製品やサービスが出来上がった後に呼ばれて広告やプロモーションを任されます。でも、「開発の段階で呼んでくれたらブランドの種を仕込める。そうじゃないとブランドにはならない」と吉田さんはかつてインタビューでも答えていましたよね。

 

吉田:広告で言うと、飲料系は、クライアントと代理店の距離が⽐較的短かった。トイレタリーもそうかな。。それは、商品を作る時点で、焙煎の香りや製法をどう伝えるかが、商品性に関わってくるから、い段階でクリエイターが表現を持ち込むことが出来たのだと思う。

 広告 について語る吉田さん写真

吉田:でも例えば、住宅とか生産プロセスが多くて、関わる人間が多い場合は、クリエイターが入っていって、後の考えの表現を持ち込むって言うのは、難しい。元々から近づけたらいいな、と僕はずっと思っていたよ。人生でやりたかったけど、実現できなかったことの一つかもしれないね。

 

ミウラ:面白いですね、商品性と表現の距離感がクライアントの業種によって存在すると。その距離が近い方が確かにクリエイティブの入る余地がありますね。「広告とブランドの関係」は吉田さんはどう捉えてらっしゃいますか?

 

吉田:他社と差別化が全くできないものを、広告の力だけで、どうにかできるということはありえない。商品自体に力がもっとほしいし、力を持つことのお手伝いをしたいと思っていて。そして、ブランドが根付くためには、どう表現するかにかかっている。さっき「アイデア」の話をしたよね。

 

ミウラ:長期的な柱となるストーリーをつくる表現が必要だったと。

 

吉田:そう。軸があると、バージョンアップされて長寿の製品になっていくっていう。そう言う意味では広告とブランドのコンセプトって本来近いものであるべきだよね。

 

ミウラ:ありがとうございます。広告業界の大きな流れをお聞きできました。次のコンテンツでは私の課題である「ノベルティ事業」についてお話したい思っています!(近日UP予定)引き続き、よろしくお願いいたします


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